東京高等裁判所 昭和31年(う)3142号 判決
被告人 志村留一
〔抄 録〕
弁護人の論旨中訴訟手続の法令違背を主張する部分について。
簡易公判手続を開始するについては裁判所は刑事訴訟法第二九一条の二に規定する検察官、被告人及び弁護人の意見を聴くべきものであることは所論のとおりである。しかし乍ら刑事訴訟規則第四四条によれば、裁判所がこの意見を聴いたこと及びこれに対する検察官、被告人及び弁護人の意見は格別公判調書に記載しなければならない必要的記載事項ではないのであるから、原審公判調書に右意見を聴いた旨の記載がなくても直ちに原審裁判所がこの意見を聴かなかつたものとは認められないのである。寧ろ、原審公判調書の記載全体から見れば、当然この手続は行はれたものと認めるべきものである。
又、刑事訴訟法第二九一条第二項前段の告知を為したことも亦公判調書の必要的記載事項ではないから原審公判調書にこの告知を為した旨の記載がないからというて原審裁判所がこの告知を為さなかつたものとは認められないのであるが、原審公判調書の記載全体から見れば、即ち被告人が、同条第二項後段規定の被告事件について起訴状記載の事実はそのとおりで、有罪であることを認める旨の陳述をした旨の記載(以上は必要的記載事項)の存するところから見れば原審裁判所は右告知を為したものと認めるべきものである。
原審訴訟手続には何等法令違背の点は存しない。論旨は理由がない。
(久礼田 武田 石井文)